北九州響灘洋上ウインドファームが年度内稼働へ「当初の事業費で難工事を克服」
2026/01/09
福岡県北九州市の北九州響灘洋上ウインドファームは、年度内の商業運転開始に向けて検査や点検などを進めている。建設資材が値上がりするなか、出資企業や施工会社などと連携して当初の事業費を維持し、この海域特有の複雑な地形・地質の困難な工事を乗り越えた。
メイン画像:北九州響灘洋上ウインドファーム(写真提供 ひびきウインドエナジー)
国内調達率
60%を達成の見込み

基地港湾として整備された北九州港の部材置き場(写真提供 ひびきウインドエナジー)
「この複雑な地盤での大規模プロジェクトを通じて得られた知見や技術は、国内のほかの事業でも活用できると確信しています」と話すのは、事業主体のひびきウインドエナジーの笠原覚取締役建設所長。北九州響灘(ひびきなだ)洋上ウインドファーム事業は、港湾法に基づく港湾区域内での洋上風力発電プロジェクトとしてスタートした。若松区沖合の南北約10km、東西約11kmに広がる海域面積約2700万㎡に風力発電設備を建設・運用する。出力9600kWのVestas製風車(デンマーク)を25基設置し、最大出力は22万kWと完成時には国内最大の洋上風力発電所となる。発電した電気は、固定価格買取制度(FIT)に基づき九州電力送配電に20年間売電する。買取価格は36円/kWh。年間発電量では、北九州市の世帯数の4割にあたる一般家庭約17万世帯分の電力をまかなう。
ひびきウインドエナジーは、Jパワーが40%、九電みらいエナジーが30%、北拓、西部ガス、クラフティア(旧九電工)が各10%を出資し、2017年4月に設立した。風車供給・据え付け工事はベスタス・ジャパン、風車基礎・海洋工事は五洋建設・日鉄エンジニアリング特定建設工事共同企業体、陸上電気工事はJ-POWERハイテック、O&M拠点港工事は五洋建設・若築建設特定建設工事共同企業体、CTV運航管理は東京汽船。
経済産業省は25年8月に公表した第2次洋上風力産業ビジョンで、工事から稼働、保守廃棄までの事業全体で40年までに国内調達比率65%を目指す方針を示している。北九州響灘洋上ウインドファームは、発電所建設における「国産比率」が約6割に達する見込みだ。これは、24年1月に本格稼働した北海道の石狩湾新港沖とほぼ同じ水準である。風車はVestasが欧州などで製造したものを使うが、風車の基礎や杭などは国産部材を用いている。
複雑な地形・地質で
杭式ジャケット基礎を採用

洋上に設置されたジャケット式基礎(写真提供 ひびきウインドエナジー)
23年3月に陸上工事を開始し、同年11月に洋上基礎工事に取り掛かった。このプロジェクトの最大の難関となったのが洋上基礎工事だ。「この海域は、水深が8メートルから30メートルあり、地質はしっかりした堆積層から岩盤が表層まで出ているようなところもあり、とても複雑な地形・地質であることが特徴です。このような海底地盤に対応するため、「杭式(くいしき)ジャケット」と呼ばれる基礎形式を採用しました」と笠原建設所長は説明する。
洋上基礎工事では、直径2メートル前後の複数の基礎杭を打設し、上部にジャケットを据え付けた。風車25基のそれぞれの地点の地形・地質を踏まえたうえで、最適な基礎杭打設の施工方法を選定したという。全体で144本の基礎杭を用い、打設は地盤に応じて3つの工法を使い分けた。
北九州エリアにある製鉄業のサプライチェーンが、北九州響灘洋上ウインドファームの洋上基礎工事を支えた。ジャケット式基礎のジャケットを製造したのは、事業区域の臨海部にある日鉄エンジニアリング若松工場。ジャケットは4本脚のやぐらのような形状で、巨大なため屋外でクレーンなどを使い、鋼管などを組み上げてつくる。若松工場では複雑な地形・地質に応じてさまざまな大きさのジャケットを製造し、風車建設地点にクレーン船で吊って運搬した。
大型SEP船が
響灘で初稼働

響灘で初稼働したSEP型多目的起重機船「CP-16001」(写真提供 ひびきウインドエナジー)
1年3ヶ月かけて基礎構造を打設し、25年5月から風車の据え付けを開始した。洋上で基礎工事や風車の据え付けをしたのは、SEP型多目的起重機船「CP-16001」。同船は、五洋建設、鹿島建設、寄神建設が共同出資するPKYマリンが保有・運航する日本船籍の大型SEP船だ。五洋建設にとって2隻目のSEP船で、響灘の事業において初稼働した。
クレーンの吊り上げ能力を1600トンと1隻目の2倍にすることで、大型風車の建設に対応できるようになった。全長120メートル、幅45メートルで、ほぼ長方形のデッキ面積は3855㎡にもおよぶ。響灘の工事では1度に風車3基分のブレードやナセルなどの部材を載せて積み出し、設置された基礎構造の上にクレーンを使って風車を据え付けた。
このプロジェクトの総事業費は1700億円。ウクライナ侵攻などで建設資材が値上がりするなか、当初見込みの金額を維持したことも大きな成果だ。風車1基に1本の基礎鋼管杭を用いるモノパイル式に対し、ジャケット式は多くの鋼材を必要とするなどコストも割高になる。
笠原建設所長は、「北九州市の恵まれた立地条件、特に西日本で唯一の基地港湾や日鉄エンジニアリング若松工場が近隣にあるという『地の利』を活かしたことが、工程と費用の面でアドバンテージになりました。資材価格の高騰について一定の影響はありましたが、五洋建設をはじめとする施工会社と計画の熟度をしっかり練り上げ、綿密な工程管理を行ったことが建設費用の低減につながりました。出資企業や施工会社などとの連携・協力のもと、このプロジェクトの社会的意義をみんなで確認し合い、まさにOne Teamとなって取り組んできた成果です」と胸を張る。
地域と歩む
洋上ウインドファーム

今年度中の運転開始を目指す響灘洋上ウインドファーム(写真提供 ひびきウインドエナジー)
北九州市の響灘周辺は、カサゴ、クロダイ、サワラ、スズキ、ヒラメ、ブリ、マダイ、メバルなどが獲れる豊かな漁場だ。ひびきウインドエナジーは、計画策定時において漁業との共存の観点から天然の漁礁や藻場の位置を考慮し、風車の位置や海底ケーブルのルートをレイアウトした。「工事期間中は、調査・施工スケジュールなどをきめ細かく情報提供して、漁業者とのコミュニケーションを重視してまいりました。運転開始後は、環境アセスメントの一環として漁獲量調査を実施する予定です。風車の基礎が新しい漁礁となって魚が集まることを期待しています」と語る。
響灘洋上ウインドファームは25年8月に25基の風車の据え付けが完了し、25年度中の商業運転開始を目指して検査や点検などの最終確認を進めている。運転開始後のメンテナンス体制は、風車本体をVestasが担当し、基礎は五洋建設が担う。その他のメンテナンスついては、ひびきウインドエナジーと地元企業で実施する。
北九州市は西地区で浮体式の総合拠点づくりを検討している。浮体係留索の製造拠点や風車の保管・組み立てヤードなどを整備し、30年度末の稼働を想定している。25年10月には、響灘ウインドファームの西側の海域が再エネ海域利用法に基づく有望区域に格上げされた。福岡県は最大出力51万kWを想定し、漁業者や船舶事業者を交えた法定協議会の設置を準備している。
ひびきウインドエナジーは、「地域と歩む洋上ウインドファーム」を目指して事業を進めている。北九州市の環境学習拠点である「北九州市エコタウンセンター」では、市民向けに洋上風力発電見学バスツアーを実施している。笠原建設所長は、「海面からの高さが約200メートルの風車25基が新たなまちのシンボルとして、多くの見学者を集める観光資源になるとともに、エネルギーを考える教育の場としてもご活用いただけるよう地域のみなさまと一緒にこのウインドファームを育てていきたいと考えています」と前を向く。
DATA
取材・文/ウインドジャーナル編集部
2026年1月16日(金)に開催する「第5回WINDビジネスフォーラム」では、福岡県北九州市エネルギー産業拠点化推進課の政策担当者が、2025年春に運転開始を予定している北九州市響灘の洋上風力発電事業の将来展望や、浮体式洋上風力発電の総合拠点整備について講演します。

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