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浮体式風況調査の精度向上へ 国内初の試験サイトを現地取材

浮体式洋上風力発電の事業採算性評価に不可欠な風況調査がいま、技術的な課題に直面している。 沖合で用いるフローティングライダーシステムは波による揺れでデータに誤差が生じるため、その補正技術の確立が急務となっている。 観測精度の向上を目指す最前線の取り組みを取材した。

メイン画像:青森県六ヶ所村のむつ小川原洋上風況観測試験サイト(出典 MOC)

 

<目次>
1.セントラル方式による 浮体式サイト調査が本格化
2.浮体動揺の誤差補正と 観測機器の海外依存が課題
3.国内唯一の検証サイトで 観測機器の洋上精度検証
4.大型風車に対応した 観測設備の高度化を計画
5.透明性の高いデータ提供と 世界水準の観測技術の確立へ

 

セントラル方式による
浮体式サイト調査が本格化

 
太平洋からの絶え間ない強風が、港の防波堤に白波をたたきつけている。 青森県六ヶ所村、むつ小川原港の一角にたたずむと、五感に響く洋上の厳しい環境と、広大な空を切り裂くエネルギーの胎動が肌に伝わってくる。 ここが、日本の浮体式洋上風力発電の未来を切り拓く技術検証の最前線だ。

政府は2025年1月、一般海域における占用公募制度の運用指針を改訂し、25年度からセントラル方式のサイト調査(以下、「サイト調査」)を基本化する方針を正式に打ち出した。現在、北海道の「岩宇・南後志地区沖(浮体)」と、「島牧沖(浮体)」の2海域において、セントラル方式としては国内初となる浮体式のサイト調査が2025年5月から実施されている。

 


洋上風力発電所および風況観測手法の主な事例(出典 レラテック株式会社)

 
浮体式洋上風力発電は、離岸距離が大きい海域に風車を据えつけるため、風況をいかに正確に把握できるかが事業全体の成否を左右する。風況観測を行う大きな目的の1つは、風車の設計や発電量評価に関わる風の乱れ、すなわち乱流強度を正確に把握することである。離岸距離が小さい海域であれば、沿岸の陸上に設置した2台のスキャニングライダーのレーザーを交差させて計測する手法などにより、洋上の乱流を精度高く観測することが可能である。しかし、離岸距離が大きい海域では陸上からの風況観測が極めて困難であるため、海上に浮かべたブイに各種観測機器(鉛直ライダーやADCPなど)を搭載したフローティングライダーシステム(FLS)を導入せざるを得ないのが現状である。

「着床式に比べて浮体式は発電規模が大きくなることが期待されるため、風車の設計や発電量評価、さらには融資を受ける際の事業性評価において、風況データの精度がよりダイレクトに影響を与えます。陸から遠く離れた過酷な海域環境だからこそ、初期段階で信頼性の高い基礎データを国側が一元的に取得し、事業者に提供していくことが日本の洋上風力導入を加速させる基盤になります」と話すのは、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)洋上風力事業部の福田真人調査課長。JOGMECは、国のセントラル方式による風況・海底地盤・気象海象のサイト調査の実施を担っている。
 

 

浮体動揺の誤差補正と
観測機器の海外依存が課題

 


波高、波の周期、潮流、風向・風速などを観測するFLS(写真提供 日本気象株式会社)

離岸距離が大きい海域で用いられるFLSには、運用上の大きな技術的課題が存在する。観測機器を載せたブイが波によって海上で傾き、揺れることで、取得される風のデータに乱れが生じる点である。この乱れが実際の自然現象としての風の乱れなのか、それともブイの揺れによる測定誤差なのかを区別し、補正する技術は、現時点において世界的に確立されていない。

この課題に対し、現在は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発事業「フローティングライダーシステムを用いた沖合の風況観測手法の確立」などが実施されている。JOGMECは将来的な技術の確立を見据えてデータ取得を継続しており、NEDO事業などの研究成果を用いた補正技術の適用を目指している。

 


国内で開発されたFLS(写真提供 株式会社MIA)

 
また、観測機器などのハード面における課題も存在する。現在国内で導入されているFLSの大半が海外製であり、契約上の開示条件の制約から、日本の事業者が求める詳細なデータが十分に開示されないケースが想定される。こうしたデータ制限の懸念に対し、日本の気象・海象条件に適合した国内メーカーによる機器開発や国産化への期待が高まっている。例えば長崎海洋産業クラスターなどが日本版FLSとして開発した「MIA(ミーア)」は、スパー型の浮体構造をベースにした大型の形状を有しており、動揺特性に優れ、揺れにくいという特徴がある。浮体自体が揺れにくいことはデータ補正の面で非常に有利であり、国内メーカーによる柔軟なデータ開示やカスタマイズ対応を含め、今後の市場拡大に伴う社会実装が期待されている。

 

国内唯一の検証サイトで
観測機器の洋上精度検証

 


むつ小川原洋上風況観測試験サイト 防波堤上に計測タワーを設置している(出典 MOC)

 
FLSをはじめとするリモートセンシング機器を実務やウインドファーム認証に活用するためには、実際の洋上条件に近い環境下で事前に観測精度の検証を行うステップが不可欠となる。青森県六ヶ所村のむつ小川原港内に整備された「むつ小川原洋上風況観測試験サイト」は、神戸大学と一般社団法人むつ小川原海洋気象観測センター(MOC)が共同運営する、リモートセンシング機器の精度検証が可能な国内初の洋上風況観測試験サイトである。

この試験サイトの海岸線は南北に走っており、西側から吹く地形性乱流が大きい「陸風」と、太平洋から吹く乱流が極めて小さい、沖合の洋上と同様の環境である「海風」の両方を計測できる地理的な背景を持つ。このため、近海域における陸域の影響を受けた状態と、受けない状態という2種類の異なる風況環境において、国際的なルールなどに基づいた機器の精度検証・キャリブレーションを実施できる立地上の優位性を有している。

 


計測タワーに設置された超音波風向風速計と矢羽式風向計(出典 MOC)


計測タワーに設置された三杯式風速計(出典 MOC)

 
防波堤上には高さ58mの計測タワー(防波堤高と合わせて合計63m)が設置され、ライダーなどと組み合わせることで高度約300mまでの計測環境を整えている。 MOC理事の小長谷瑞木氏は、「むつ小川原洋上風況観測試験サイトが持つ、陸風と海風の2つの異なる風況特性を活かし、FLSをはじめとした、国内外のさまざまなライダー機器の観測精度を厳格に検証していきます。 また、我々が蓄積した高精度な比較観測データを研究機関やJOGMECなどにご利用いただくことによって、浮体の揺れに伴うデータ補正アルゴリズムの高度化を支え、日本国内の風況観測における技術的信頼性の底上げに貢献したいと考えています」と語る。

 

大型風車に対応した
観測設備の高度化を計画

 


むつ小川原海洋気象観測センター理事 小長谷瑞木氏

 
JOGMECは今年2月、MOCとの間で試験サイトの円滑な利用推進を図ることを目的とした協定を締結した。JOGMECの福田氏は、「実海域への設置前にむつ小川原の試験サイトで機器の状態を把握し、確実な調査の遂行を目指すとともに、NEDO事業などが進める研究成果と組み合わせることで、適切な観測データの補正を行います。」と述べ、検証インフラとデータ品質の向上を密接に連動させていく考えを示している。

しかし、昨今の風車機器の急速な大型化への対応というインフラ面の課題も浮き彫りになっている。 最新の風車はナセル高さが150m近くに達しており、世界水準の試験サイト(高度200〜300m級)と比較すると日本の設備は高度に課題を残す。 こうしたなか、むつ小川原の試験サイトでは、大型風車に対応できる観測設備の高度化を計画している。 具体的には、NEDO事業「沖合における風況の直接観測に係るニーズおよび観測手法に関する検討」の一環で、建築基準やコストといった制約をクリアした上で、将来的に陸上へさらなる高層マスト(120〜150m級のハイマストを想定)を建設することや、洋上に揺れの少ない「浮体プラットフォーム(FOP)」を導入し、実際のハブ高さに近い高度で直接観測との比較検証が行えるインフラ整備を進めていく方針だ。

 

透明性の高いデータ提供と
世界水準の観測技術の確立へ

 


むつ小川原洋上風況観測試験サイトで、比較検証するため陸上に設置したスキャニングライダー

 
浮体式洋上風力発電事業が今後さらに水深の深い沖合や排他的経済水域(EEZ)へと拡大するにつれ、海上の波や風による浮体の揺れはさらに大きくなる。 そのため、ブイの動揺特性を把握した上での高度なデータ補正技術、特に乱流強度観測における過大傾向を適切に処理する手法の構築は、引き続き重要な研究課題となる。

資材価格の高騰などにより事業の採算性をより正確に見極める必要性が高まるなか、発電事業者は、観測データをブラックボックスにせず、透明性を確保した生データ(ローデータ)に近い形での開示を求めている。 JOGMECでは、適切な審査を経た事業者に対してローデータも含めて開示する体制をとっており、今後も説明会などを通じて事業者ニーズを反映させた精度の高い情報提供を継続していく方針である。

JOGMECの福田氏は、「セントラル方式のサイト調査が動き出し、発電事業者のみなさまが実際の観測データを目にするなかで、事業性評価に何が必要かという具体的な要望や意見が数多く寄せられています。 JOGMECとしては、事業者説明会やアンケートを通じていただいた業界のニーズを真摯にくみ取り、有識者からのアドバイスも交えながら、その時々における最適な判断のもとで真に有用なデータを提供していきたいと考えています。 信頼性の高いデータをしっかりと届けることで、日本の洋上風力開発を力強く後押ししていきます」と力を込める。

今後、国内で広く認められる一貫した洋上風況観測手法を構築し、技術検証の体制を確固たるものにすることが、日本の洋上風力市場全体の持続可能な成長を支える土台となるだろう。
 

 

DATA

取材・文:ウインドジャーナル編集部
 

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