浮体式洋上風力市場 海外先行事例から学ぶ、経済性重視の市場設計
2026/10/20
浮体式洋上風力は、発電単価の安さだけでは市場化できない。投資を呼び込み、産業を育てる経済条件とは何か。海外事情に詳しい専門家がわかりやすく解説する。
フランス南部、地中海のリオン湾浮体式洋上風力発電プロジェクト (画像: Jacopo Landi / Shutterstock.com)
「安い電気」だけでは
浮体式洋上風力市場は育たない
従前の投稿では、浮体式洋上風力には政策主導の市場形成が不可欠であると述べました。今回は、その市場に資金を呼び込むための経済的条件について考えます。結論からいえば、同市場の成否を分けるのは、単に高い売電価格ではなく、事業者・金融機関・供給網企業が長期的に投資判断できる予見性です。日本の浮体式風力発電を実証規模から商用規模へ移すには、収益安定性、発電効率、建設実現性、国内供給網の4条件を満たす必要があります。
洋上風力は、燃料費が不要でエネルギー安全保障としての価値が高い一方、初期投資が大きい産業です。特に浮体式は、風車だけでなく浮体基礎、係留、海底ケーブル、港湾、作業船団まで含めた総合システムが不可欠であり、1つの制約が全体費用を押し上げます。
欧州では2023年前後に金利上昇、資材高騰などにより入札不調や事業見直しが相次ぎました。英国は第5回CFD(差額決済契約)で新規洋上風力案件を確保できなかった教訓を踏まえ、第6回では上限価格と予算を見直し、着床・浮体式合わせて5.34GWの案件を確保しました。これは、価格競争を促す制度であっても、採算性を事業者任せにすれば市場が止まることを示しています。

韓国と欧州の教訓
浮体式に適した制度設計が必要
本連載でも取り上げたエクイノール韓国支社のバンディブリ浮体式風力案件は、2024年のオークションで落札したものの、期限までに採算性を確保できる条件でREC(再生エネルギー供給認証書)販売契約を締結できず、今年5月に開発中止が発表されました。750MW級の大型案件の中止は、韓国内外に大きな落胆をもたらしましたが、韓国政府は今後も浮体式市場を形成する意思があることを「2026年上半期競争入札でのCIP社ヘウリ浮体式風力案件の落札」という行動で示しました。同案件は3フェーズの総発電量が計1.5GWの大型案件であり、今回はフェーズ2(534MW)を落札しました。CIP社は規模の経済を生むためにも、今年下半期の競争入札でさらに500MWの入札を実施するとみられます。
韓国・欧州の直近の事例から見えてきた教訓は、「事業会社は、事業性が乏しいと判断すれば受注後であっても投資を中止しうる」、「官民がリスクを分担する仕組みを早く整えた国ほど投資を呼び込める」という点です。フランスでは、欧州委員会が7月16日、最大1.4兆円規模、1,100MWの洋上風力支援策を承認しました。この支援は競争入札とCfDにより行われ、市場価格が基準価格を下回れば補填し、上回れば事業者が返還します。これは国民負担を抑えながら、案件のバンカビリティ(融資適格性)を向上させる仕組みです。日本でもFIP制度だけで浮体式の初期商用案件を支えるには限界があり、浮体式に適した制度設計が必要です。
発電効率とインフラ整備
国内供給網の最適化を
浮体式では、風況の良い沖合へ行くほど発電量は増えますが、水深、離岸距離、送電、気象海象、港湾能力の制約も増します。従って日本政府は、最初から理想的な発電効率だけを追うのではなく、「建てられる海域」から段階的に大規模化する発想が重要です。EEZ展開により選択肢が広がりましたが、市場発展のためには、韓国・台湾のように毎年1GW級の落札を継続的に積み上げる実行力が必要です。
また、日本政府はLCOE(均等化発電原価)低下を業界に求めるだけではなく、自らLCOE低下の呼び水となるインフラ整備(浮体構造物を量産可能な港湾改修、施工可能時期を最大化する据付技術開発援助、運転保守拠点整備など)を主導することも肝要です。経産省・NEDOのGI基金がこうした事業や施策に活用されていることは、高く評価すべきでしょう。
国内供給網については、今年3月号で着床式案件について述べた内容の繰り返しになりますので、そちらをご一読ください。完全国産義務化を急いで費用上昇や入札不調を招くより、日本が勝てる領域を選び、周辺国の供給網と連携しながら国内付加価値を高めるべきです。
浮体式洋上風力の経済性は、発電単価だけで決まりません。投資家が読める制度、事業者が造れる案件、供給網が投資できる需要量、この3つがそろって初めて市場は動きます。日本に必要なのは、最安値を競わせる市場ではなく、長期的に安くなる市場を設計することです。

PROFILE
風海鳥2004
海外を中心にプラント建設業界に25年以上在籍。洋上風力産業に関しては、APAC圏市場の黎明期 (2010年代)からさまざまな工事案件に従事してきた専門家。
取材・文/ウインド・ジャーナル編集部
WIND JOURNAL vol.11(2026年秋号)より転載










