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洋上風力発電が立地する自治体が現状と課題を共有。地域との共生・振興策をめぐって

洋上風力発電が立地する自治体や立地予定の自治体などでつくる、全国洋上風力発電市町村連絡協議会の会合が昨年11月、福岡県北九州市で開かれた。全国から18の自治体が集まり、現状と課題を共有した。

メイン画像:北九州市内のホテルで開催された、全国洋上風力発電市町村連絡協議会の情報交換会。(筆者撮影)

洋上風力発電を
電源立地交付金の対象に

全国洋上風力発電市町村連絡協議会は2022年、洋上風力発電が立地する自治体や、立地予定の自治体が一致協力してさまざまな取り組みを行うことを目的に設立された。8道県23市町で構成され、今年度は新たに山形県酒田市、長崎県西海市が加わった。協議会ではこれまで、洋上風力発電設備を活かした地域振興や漁業振興、漁業との共生を進めるための連携の可能性などを協議してきた。

昨年7月にはオンラインで24年度の総会を開き、国に対する要望事項として、洋上風力発電を「電源立地地域対策交付金」の対象に含めるよう求めることを事業計画に盛り込んだ。電源立地地域対策交付金は、発電施設の立地地域や周辺地域で行われる公共施設の整備や、住民の福祉の向上に役立つ事業に対して、国から都道府県や市町村などに交付される。発電施設の立地にあたって、地元の理解の促進などを図ることを目的に、保育所の運営や体育施設の整備、企業誘致の促進助成など、さまざまな事業に活用されている。対象となる発電施設は現在、原子力、地熱、水力などで、洋上風力は含まれていない。

 

 

地域の産業振興に向けて
調整役を担う自治体


18の市と町から約50名が参加し、取り組みが先行する自治体は企業誘致の状況などについて報告した。(筆者撮影)

昨年11月には、福岡県北九州市で報告会と視察研修会を開いた。18の市と町が参加し、それぞれの代表が現状を報告した。北海道石狩市の池内直人・新産業創出担当課長は、「23年5月に有望な区域に整理された石狩市沖は、海岸線が湾曲していることもあり、多くのステークホルダーが関わっています。法定協議会の開催に向けて、そうしたステークホルダーとの調整を進めています」と説明した。

石狩市は昨年7月、秋田県秋田市と共同で「再生可能エネルギー関連産業の振興に向けた共同研究会」を設置した。洋上風力発電を地域の企業のビジネスチャンスにする取り組みや、再エネを看板とした産業振興、産業ツーリズムなどの検討を共同で行う。池内氏は、浮体式も視野に入れた洋上風力サプライチェーンの構築などの研究テーマを検討していることを明らかにした。

23年12月に公募を開始した洋上風力第2ラウンドでは、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖の事業者として、JERA、電源開発、伊藤忠商事、東北電力の企業連合である男鹿・潟上・秋田Offshore Green Energy コンソーシアムが選定された。男鹿市の担当者は、「事業者の選定から約1年が経ち、洋上風力発電の開発に伴う宿泊需要の増加を見込んで、さまざまな宿泊施設などの誘致が進んでいます。他にも、廃校を活用した工場、陸上養殖施設なども進出しています。市では、将来的に再エネの活用を見据えた取り組みを模索しています」と説明した。

法定協議会の開催を念頭に
酒田市が市内の意見を集約

新たに協議会に参加した山形県酒田市の担当者は、「臨海工業団地内に火力発電所があり、国が目指す非効率石炭火力発電をフェードアウトする方針は、地域の経済に大きな影響を与えると考えています。市は、洋上風力関連産業をはじめとする環境関連産業の誘致に向けて、山形県とともに取り組みを進めています。23年10月に有望な区域に整理された後、地元の学生や商工会議所などからヒアリングをしているところです。24年度中に法定協議会を開催することを念頭に取り組んでいます」と説明した。

山形県は昨年12月、地元住民や漁業関係者、商工関係者などで構成する酒田市沖の検討部会を開催した。出席者から洋上風力発電についての質問や要望が出されたこ促進区域に指定されている3つの自治体の首長に、洋上風力発電の地域振興に向けた思いを聞いた。とから、年末に酒田市のウェブサイトに「酒田市沖洋上風力発電に関するQ&A」を掲載している。

世界規模の気候変動対策に
地域で取り組む誇りを

洋上風力第2ラウンドで事業者が選定された新潟県胎内市の井畑明彦市長は、「すべての自治体にとって、地域や経済の振興、税収の増加だけでなく、地球温暖化の抑止も大切なテーマだと考えています。そのために再エネや洋上風力発電が必要であり、そうした世界規模の課題に取り組むことが、地域に対する住民の愛着につながっていくと思います。さらに、それが次世代につながる価値として継承されていくことは、極めて大切な営みだと考えています」と述べ、再エネを導入することの大切さを強調した。

協議会の会長を務める秋田県能代市の齊藤滋宣市長は、「2050年カーボンニュートラルという国の目標に向けて、自治体が取り組むべきことを一緒に考えていきたいと思います」と締めくくった。

北九州市の洋上風力発電産業
総合拠点化の取り組み


積み出し・建設、物流、O&M、製造の総合拠点化を目指す取り組みについて説明する北九州市の光武理事。(筆者撮影)

この後の勉強会では、北九州市港湾空港局の光武裕次理事が、洋上風力発電関連産業の総合拠点化を目指すグリーンエネルギーポートひびき事業の10年間にわたる取り組みについて講演した。国内だけなく、アジア太平洋地域を視野に入れた港湾開発の考え方や、欧州の洋上風力発電の開発における港湾間での機能の補完などについての説明に、参加者は熱心に聞き入っていた。

開催地となった北九州市では、港湾区域内での着床式洋上風力発電事業である北九州響灘洋上ウインドファームの建設が進んでいる。今春にも風車の設置を開始する見通しで、25年度中の運転開始を予定している。

促進区域3自治体の
首長にインタビュー

促進区域に指定されている3つの自治体の首長に、洋上風力発電の地域振興に向けた思いを聞いた。
秋田県能代市
齊藤滋宣市長


国の強いリーダーシップを
洋上風力発電は、国や自治体にとって新たなチャレンジです。カーボンニュートラルに向けて国が具体的な案件の開発目標を明確に示し、リーダーシップを発揮することを期待しています。


山形県遊佐町
松永裕美町長


町民のためになるように取り組む
人口約1万2000人の遊佐町では、再エネや洋上風力発電に対応するため、昨年4月、産業課にエネルギー政策推進室を設けました。洋上風力発電が町民のためになるように取り組んでいきます。


新潟県胎内市
井畑明彦市長


洋上風力発電をシビックプライドに
新潟県村上市・胎内市沖のプロジェクトについて、安全・安心に工事が進み、地域の振興策が具体化されていくことを期待しています。地球温暖化対策に役立つ洋上風力発電が、市民の誇り・シビックプライドになることを願っています。


取材・文:山下幸恵(offce SOTO)

WIND JOURNAL vol.8(2025年春号)より転載

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