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風力発電導入量140GWへ。JWPAが「WIND VISION」を策定

2050年には、風力発電により1/3の電力を供給。経済波及効果は年間6兆円規模に。日本風力発電協会(JWPA)が公表した「JWPA WIND VISION 2023」を紐解く。

▲「JWPA WIND VISION2023」を発表する代表理事の加藤仁氏

安心・安定・持続可能な社会を実現するために

日本風力発電協会(JWPA)はこのほど、2050年に向けた風力発電の導入目標や各種施策について取りまとめた「JWPA WIND VISION 2023」を策定した。5月29日に都内ホテルで行われたJWPA活動報告会において、同協会代表理事の加藤仁氏より発表された。

脱炭素化の推進は、気候変動対策と経済成長両面のキーファクターとして、各国の重要課題となって久しい。我が国においても、2050年カーボンニュートラル宣言をはじめとして様々な中長期戦略が打ち出されている。

他方、新型コロナウィルス感染症による社会活動への影響や、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により世界のエネルギー情勢は混迷の度合いを深め、風力発電を含む再生可能エネルギーの最大限導入は、エネルギー安全保障の意味からも重要度を高めている。

こうしたなか政府は、2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」を策定。エネルギー安全保障の観点も含め、化石エネルギー中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心へと転換する「グリーントランスフォーメーション(GX)」の推進を掲げている。

「JWPA Wind Vision 2023」は、このような状況を踏まえて策定された。JWPAとしては、同ビジョンに基づいて風力発電の最大限導入を進め、「安心・安定・持続可能な社会の実現」に貢献していきたい考えだ。

風力発電の導入目標と社会的便益

同ビジョンでは、まず、日本が目指すべき社会の姿を「脱炭素への移行、産業・エネルギーレジリエンス強化、国際競争力ある産業創出と経済成長の推進による、安心・安定・持続可能な社会」と定義。そのうえで、目指すべき社会の実現に向けて、2050年時点で必要となる風力発電の導入量を示した。

「2050年時点で、風力発電全体で140GW、内訳として、陸上風力発電40GW、着床式洋上風力発電40GW、浮体式洋上風力発電60GWの導入が必要。本導入により、風力発電による発電電力量は約4,500 億kWhとなり、2050年の想定電力需要(約1.35兆kWh)の 1/3を賄う結果となる」。加えて、「国産グリーン水素供給拡大に向けて、さらなる高みを目指す(2050年時点で30GW以上の浮体式洋上風力を追加導入)」とする。

そして、2050年までに140GWの風力発電を導入した際にもたらされる便益を「2050年時点で、経済波及効果は年間6兆円、雇用創出効果は35.5万人、化石燃料調達費削減効果は年間2.5兆円」と試算。風力発電は、「脱炭素化、産業・エネルギーレジリエンス強化に加え、新たな国内産業と雇用の創出によるグリーン成長・GX実現につながる社会的意義の大きい電源」であるとする。

風力発電の最大限導入に向けた必要施策

風力発電の最大限導入に向けては、各種施策を官民一体となって迅速に展開していかなければならない。JWPAでは、行うべき施策の全体像を下表のとおり整理する。基本方針となるのは、「大規模・安定的・予見可能性の高い中長期市場形成」「グローバル市場と整合した合理的かつ透明性の高い制度設計」「国際競争力ある産業育成を実現する適時・的確な産業政策」の3つだ。

必要施策の筆頭には、「意欲的で明確な中長期導入目標の設定」が掲げられている。意欲的で明確な目標設定は、「市場の予見可能性を高め、民間の投資と最新技術を呼び込み、国際競争力のある国内産業育成を実現するための全施策のベースとして、必要不可欠な最重要施策である」と強調。JWPAがまとめた前述の導入目標を、国として目指すべきことを提案する。

実効的な道筋を描いた戦略的な産業育成支援策を

国際競争力を持つ国内産業を育成していくためには、「産業育成に要するステップ(将来市場・プロジェクトパイプラインの提示→事業開発タイミングと整合した国内産業育成支援策→段階的投資判断→段階的産業基盤の確立)を踏まえた、実効的かつ戦略的な産業育成支援策を国を挙げて講じていく必要がある」として、次のとおり、その道筋を示す。

国内産業育成の基盤としては、「量産体制の構築、設備投資に踏み切れるだけの長期安定的かつ明確な市場規模、具体的なプロジェクトパイプライン、および機器の需要規模が明示・保障されることが不可欠」。同時に、「初期投資が発電原価の上昇につながらないように短期的なコスト増加を補うための補助金等の支援策を、公募・入札の規模とスケジュール面で整合的に実行していくこと、すなわち開発計画と支援策の整合性確保とマイルストーンの明確化が極めて重要である」と訴える。

市場形成初期に国内企業の参入を支援し、規模の経済を保証するだけの市場規模が確保されれば、早期にコスト競争力を高めることができ、グローバル市場への輸出を通じてさらに産業基盤を強化することが可能になる。また、国内におけるサプライチェーンの形成は、万一の有事の際の産業のレジリエンスを高めることにもなるだろう。

JWPAでは、「2030年までを国内産業の基盤形成の期間」と位置付けており、「エネルギー・経済安全保障を含めた総合的な観点から、国内に新たなサプライチェーンを確立していくことが必須」であると考える。並行して、「コスト競争力のあるグローバルプレイヤーとして自立させ、海外展開を含めて継続的に成長できる、持続可能な産業に拡大していくことが肝要である」とする。

同ビジョンで提言する導入目標・必要施策については、今後、官民で議論を深めていく必要があるだろう。JWPAとしては、その旗振り役として、いっそうのリーダーシップを発揮していきたい考えだ。


取材・文/廣町公則

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