着床式洋上風力発電の“いま”。北九州市響灘沖で建設工事が本格化
2024/03/18
港湾区域内での着床式洋上風力発電事業である、福岡県北九州市響灘洋上ウインドファームの建設工事が本格化している。大型のSEP船が稼働する響灘からプロジェクトの“今”をお届けする。
メイン画像:日本船籍のSEP船。今後の洋上風力発電プロジェクトでの活躍が期待される。
風車建設が本格化した響灘
ジャケット式基礎を据え付け
昨年3月の北九州響灘洋上ウインドファーム建設工事の着工から1年。着床式風力発電設備の建造が進む北九州港近郊には、SEP船が寄港し、黄色いジャケット式基礎が立ち並ぶ。響灘臨海工業団地の突端にある建設基地港湾には、大きなトラックが絶え間なく出入りしている。同事業では、4エリアの合計約27㎢に、9600kWの風車を合計25基設置する。最大出力は22万kWだ。2025年度の運転開始を目指す。設置・運営事業者は、九電みらいエナジー、電源開発、北拓、西部ガス、九電工が出資するひびきウインドエナジーだ。
1600トン吊クレーンを搭載したSEP型多目的起重機船は、基礎工事の一部と風車据付工事のために寄港した。五洋建設、鹿島建設、寄神建設が共同出資するPYKマリンが保有・運航している。4本の脚(レグ)を海底に固定して、海面から船体を数メートルほどジャッキアップした姿を対岸から臨むことができる。
25基のジャケット式基礎を効率よく作るため、立てた状態で製作している。(画像提供:日鉄エンジニアリング株式会社)
高低差ある海底の複雑な地盤
基礎の設計段階から対策
響灘沖のジャケット式基礎の設計・製作を行うのは、石狩湾新港沖でもジャケット式基礎のEPC(設計・製作・施工)を担当した日鉄エンジニアリングだ。石狩湾新港沖では、ジャケット式基礎の設計で国内初のウインドファーム認証の取得に対応した。同社の若松工場にてジャケット式基礎を製作し、現地での据付工事も担当した。同社の担当者は「設計、製作を含めて遅延なく工事を完了したことで当社の技術力を広くアピールできた」と胸を張る。
製造拠点と風車の設置海域が近いため、台船に載せて運ぶ輸送プロセスを省略できる。(画像提供:日鉄エンジニアリング株式会社)
その一方で、響灘の海底は起伏が激しく、複雑な海底地盤が特徴だ。異なる水深に対応するため、ジャケット式基礎の高さに約25〜50mのバリエーションを持たせ、地盤に応じた基礎杭の施工方法を複数採用するなど、設計段階から対策を講じている。製作では、大型ジャケット式基礎を連続出荷するために、ヤードレイアウトの最適化を検討するとともに、すべての工程にボトルネックを作らず、連続して製作するための工程管理に配慮しているという。今後は、「ジャケット式基礎に限らず、浮体式を含む多様な基礎形式に対応するEPCコントラクター及びO&Mプロバイダーとして、国内の洋上風力開発をリードしていきたい」と意気込む。
高強度で結束可能
腐食しない樹脂バンドを導入
北九州沖で採用された高強度樹脂製バンド(出典 株式会社土井製作所)
北九州沖の事業で採用されたのが、樹脂製の「スマートバンド」。世界最高強度の樹脂バンドを製造する英国のメーカーが開発した。組み合わせなどによって1トン以上の強度で結束ができるのが特徴で、北九州沖では航路表示ケーブルの結束に使われる。製品の日本向けカスタマイズをしている土井製作所の嘉悦崇社長は、「樹脂製なので錆びません。軽量で多様な形状に対応します」と胸を張る。今後は、着床式の事業はもちろん、浮体式事業にも導入をはたらきかけていく方針だ。
取材・文:山下幸恵(office SOTO)
WIND JOURNAL vol.6(2024年春号)より転載