北海道せたな町、国内初の洋上風力 再エネのまちの新たな挑戦
2024/03/15
北海道せたな町は、2004年に国内初の洋上風力発電設備が本格稼働したことで知られている。昨年11月には地球温暖化対策実行計画を策定し、地域の合意形成や自然環境に配慮して、風力発電や太陽光発電の円滑な導入を目指している。
▲ 2020年に稼働した陸上風力発電設備「せたな大里ウィンドファーム」(出典 せたな町役場)
1. かつてはイカ漁の基地漁獲量が激減
2. 2004年に国内初の洋上風車が稼働
3. 2023年2月にゾーニングマップを公表
4. 2023年5月に檜山沖が有望な区域に
5. 自然・社会環境に配慮して再エネを円滑に導入へ
かつてはイカ漁の基地
漁獲量が激減
せたな町の代表的な観光地 三本杉岩
函館市から自動車道を通って約2時間。北海道せたな町は、日本海に面した南北に細長い町だ。合併前の旧瀬棚町は、2001年に国内で最も早く肺炎球菌ワクチンの公費助成を実施し、国保老人医療費を半減させたことで知られている。「せたな」という言葉は、アイヌ語の「セタルペシュペナイ(犬の川)」に由来するといわれている。
せたな町がある檜山地方は、江戸時代後期からニシン漁で栄えた。その後もイカ、サケ、ウニを中心とする水産業と農林業が、町の基幹産業である。同町の久遠漁港は、かつてはイカ漁の基地として道外からも船が集まった。ところが、ここ数年でイカの資源量が激減し、漁業者の暮らしを直撃している。檜山地方の漁獲量は2000年代前半に年間3万トンを超えたが、2022年には3400トンと約1割に減少している。
せたな町の人口は1955年の2万2552人をピークに、2015 年 8473 人(国勢調査)、2024年 6906 人(2月29日現在)と減少の一途をたどっている。国立社会保障・人口問題研究所によると、2045 年の人口は 3327人と推計されている。
2004年に
国内初の洋上風車が稼働
2004年に本格稼働した洋上風力発電設備「風海鳥」(出典 せたな町役場)
地域の活性化と産業振興を図るため、合併前の旧北檜山町が1999年に「新エネルギービジョン」を策定し、風力発電や太陽光発電などの再エネの導入目標を定めた。2000年には旧瀬棚町が「新エネルギービジョン報告書」をとりまとめ、地域の産業として再エネを積極的に導入する方針を打ち出している。
旧瀬棚町では、2004年に国内初の町有の洋上風力発電設備(600kW✕2基)が本格稼働した。総事業費は6億9090万円。瀬棚港の防波堤の沖合に設置された。風車のブレードを鳥のイメージに重ねて「風海鳥(かざみどり)」という名前がつけられた。「子どもたちの未来に美しい地球を残すため、日本海から吹く風を活用して、環境にできるだけ負担をかけないクリーン・エネルギーを」という関係者の思いが込められている。
せたな町が1999年と2000年に実施した風況調査の結果、瀬棚港の年平均風速は7.9m/sで、西北西から安定した風が吹いているというデータが得られた。観測地点全方位のエネルギー密度は584.7W/m2で、風力発電の推奨値である215w/m2を大きく上回っている。
2005年には、大成町、瀬棚町、北檜山町の3町が合併して「せたな町」が誕生する。その年の12月には、海沿いのエリアで大規模陸上風車「瀬棚臨海風力発電所」が運転を開始した。出力は1万2000kW。その当時、道内最大規模である2000kWの風車6基が設置され、新たな町のシンボルとして全国的に注目を集めた。2020年には、海沿いの高台で3200kWの陸上風車16基がを設置した「せたな大里ウィンドファーム」が稼働している。
2023年2月に
ゾーニングマップを公表
ゾーニングの対象範囲(出典 せたな町役場)
せたな町は、再エネを円滑に導入するため、2021年からゾーニングを開始した。ゾーニングでは、再エネ設置を促進するエリア(促進エリア)、関係機関などとの調整が必要なエリア(調整エリア)、環境保全を優先すべきエリア(保全エリア)、設置に適さないエリア(不適エリア)に区分けし、マップに落とし込むという作業が行われる。陸上では大型風力発電と太陽光発電を対象に、洋上では着床式と浮体式の洋上風力発電を対象に実施した。外部の有識者や地域のステークホルダーなど、さまざまな立場の人達からの意見を聞き、昨年2月にゾーニングマップを公表している。
せたな町 再生可能エネルギーに係るゾーニング
陸上風力発電では、保全エリアとして1万8361ha、調整エリアは9671ha、促進エリアは1148haに区分けした。原則として、住居からの距離が450m以内を保全エリア、450m~1㎞を調整エリアと設定している。
せたな町 再生可能エネルギーに係るゾーニング
洋上風力発電では、保全エリアとして6604.4ha、調整エリアは6万4639.8ha、促進エリアは1831.1haに区分けした。水産資源保護法による河口規制区域である各河川の河口から300~1,000mの範囲は保全エリアとした。イカ釣り漁はイカの群れの動きや当日の海象条件を基に操業するため、範囲を特定することはできないとして、事業計画を具体化する段階では、可能な限り影響を軽減、最小化もしくは代償するように漁場利用者との調整を図りつつ、漁業影響緩和策を検討することを発電事業者に求めている方針だ。
2023年5月に
檜山沖が有望な区域に
洋上風力発電の事業化を検討している檜山沖
せたな町、八雲町、江差町、上ノ国町の4町の沖合は、昨年5月に再エネ海域利用法に基づく「有望な区域」に整理され、洋上風力発電の事業化に向けて大きく前進した。昨年12月には法定協議会の初会合が開かれ、漁業との共生を念頭に議論を深めていくことを申し合わせている。
昨年12月の初会合で、せたな町の高橋貞光町長は「この事業によって、漁業をはじめとする第1次産業の振興や町づくりを推進していきたい。漁業者から心配の声も聞かれるため、漁業影響調査の実施と持続可能な漁業振興・発展への支援策を検討していただきたい。そして、電力の地産地消と非常用電源としての活用、地元の江差港、瀬棚港のメンテナンス港としての利活用や関連産業の誘致、雇用の創出などによる地域経済の活性化を期待している」と述べた。
自然・社会環境に配慮して
再エネを円滑に導入へ
せたな町は2022年3月に「ゼロカーボンシティ」を目指すことを表明した。そして昨年11月には、「地球温暖化対策実行計画」を策定している。この計画は、市町村が地域の脱炭素化を推進する「再エネ促進区域」を設定し、再エネ事業に求める環境保全・地域貢献の取り組みを自らの計画に盛り込み、適合する事業計画を認定する内容。地域の合意形成を図りつつ、環境に適正に配慮し、地域に貢献する地域共生型の再エネを推進するのが目的だ。
せたな町では、陸上風力発電と太陽光発電について、今後、地域住民や事業者と十分に情報交換・連携しながら再エネ促進区域の範囲の設定を調整していく方針。そのなかでも、調整エリアで検討される事業については、自然・社会環境に関する配慮すべき事項を十分に考慮することに加えて、適切な事業計画の検討、地域関係者や関係機関への十分な説明や調整、環境影響評価などの手続き、環境配慮の検討、脱炭素や地域貢献の取り組みなどを、町として事業者に求めていく考えを示している。
DATA
取材・文/高橋健一