洋上風力第4ラウンドは異例の展開 新たな促進区域が未公表
2025/01/23

洋上風力第4ラウンドは、年度末が近づいても新たな促進区域が公表されない異例の展開となっている。こうしたなか、国は事業者の評価基準を大幅に見直すとともに、FIP基準価格を落札後に調整する新たな制度を導入する考えだ。
北海道松前沖
昨年7月の法定協で意見集約
促進区域の指定が期待されていた北海道松前沖
再エネ海域利用法に基づく、新たな促進区域は毎年秋に公表されている。北海道松前沖では、昨年7月31日に法定協議会の意見がまとまり、促進区域の指定に向けて大きく前進したとみられていた。
経済産業省と国土交通省は昨年9月27日に、「秋田県秋田市沖」と「和歌山県沖東側」、「和歌山県沖西側・浮体式」の3つの海域を新たに「準備区域」として整理したと発表したが、新たな促進区域を公表しなかった。資源エネルギー庁風力政策室では「促進区域の指定に先立って、海域の調査を進めている」と説明している。
迅速性の評価方法を
各海域で統一
迅速性評価についての考え方(出典 経済産業省)
こうしたなか、国は第4ラウンドの公募から、事業者の評価基準を大幅に見直す方針を打ち出している。今回の制度見直しは、「迅速性評価方法の見直し」、「供給価格評価方法の見直し」、「入札保証金制度の見直し」、「価格調整スキームの導入」が主な内容だ。昨年11月に開催された総合資源エネルギー調査会の有識者会議で示された。
このうち、迅速性評価は第2ラウンドから導入された。事業実現性評価120点満点のうち20点が配分されている。現行の評価制度では、港湾の利用可能期間を踏まえて想定される最速の運転開始時期を海域ごとに設定している。見直し案では、すべての海域で事業者選定から5年6カ月以内に運転開始となる計画を20点満点とし、それ以降は運転開始時期が半年遅くなるごとに2点減点する。
ドイツなどの諸外国や第2ラウンド公募参加事業者の運転開始までの平均期間である約6年を基準日とし、そこからさらなる事業者の創意工夫(6ヶ月)を考慮した期間である5年6ヶ月を満点としている。海域ごとの個別の事情を考慮せずに、近接した基地港湾以外の港湾を利用するなどして、事業者側に運転開始を早める工夫を求める内容になっている。
また、海外の洋上風力発電事業で中断や撤退が相次いでいることから、リスクシナリオへの対応が優れている公募占用計画を高く評価する。資金・収支計画の配点を10点満点から14点満点に、運転開始までの事業計画の配点を15点満点から16点に変更する。
供給価格の評価
準ゼロプレミアム水準を新設
供給価格と価格点のイメージ(出典 経済産業省)
供給価格の評価方法についても見直す方針だ。供給価格の配点は120点満点で、これまでと同様に評価点全体の5割を占めることに変わりはない。現行の評価方法では、ゼロプレミアム水準での入札があった場合に、ほかの事業者もゼロプレミアム水準で入札しなければ、点差が大きく開いてしまう仕組みになっている。
第3ラウンドでは、公募に参加した7つの事業体すべてがゼロプレミアム水準で入札した。見直し案では、一定程度安価な「準ゼロプレミアム水準」を設ける。ゼロプレミアム水準から準ゼロプレミアム水準までは、価格上昇による配点の下落を緩やかにして、入札価格の選択の余地を確保する。
FIP基準価格を調整する
価格調整スキームを導入
FIP基準価格に乗じる調整変動率(出典 経済産業省)
今回の制度見直しでは、洋上風力発電事業について、FIP基準価格を落札後に1回だけ調整する「価格調整スキーム」を導入する。大規模洋上風力発電事業では、資本費と運転維持費の割合が7対3となっている。このため、FIP基準価格のうち10分の7を調整の対象とする。調整変動率は、公募開始直前の1年間における物価水準と、工事計画届出予定日の直前1年間における物価水準の比率から一定の加減を減じた割合とする案が示されている。
第2次・第3次保証金を
大幅に引き上げ
適正な入札・事業実施を担保するための保証金についても見直す方針が示された。保証金は、第1次から第3次の3回に分けて納付する。オランダやデンマークなどの海外の事例を参考に、選定後に納付する第2次保証金を5000円/kWから1万円/kWに、選定後12ヶ月以内の納付する第3次保証金は1万3000円/kWから2万4000円/kWに、それぞれ増額する。促進区域を指定するため海域調査の費用などを国が負担しており、太陽光発電などのその他の電源に比べて、より厳格に対応する必要があることを理由に挙げている。
その一方で、保証金の没収要件を緩和する。これまでは、迅速性評価の評価点が下がってしまう日までに運転開始できないと、第2次・第3次保証金は全額が没収されていた。見直し案では、迅速性評価の点数が下がる半年毎に保証金を没収し、2年以上の遅延で全額没収する。
昨年12月に公表された第7次エネルギー基本計画案では、風力発電の割合を2023年度の1.1%から40年度には4~8%程度に拡大する目標を打ち出している。政府は「我が国における再エネ主力電源化の実現を確実なものとしていく観点から、引き続きコスト低減・迅速性を重視しつつ、収入・費用の変動といった環境変化に対して強靱な事業組成を促し、洋上風力発電への電源投資を確実に完遂させることを主軸とした制度検討だ」と説明している。
取材・文/高橋健一