【風車の国・オランダに学ぶ】洋上風力が地域と共生するためのデザインとは?
2024/05/29
欧州や北米、アジアなどで洋上風力発電プロジェクトに携わるオランダの総合研究所・デルタレス。オランダ大使館で行われた洋上風力発電のセミナーでは、プレンカー博士が洋上風力発電が他の海域利用者や地域と共生するための可能性について講演した。
(講演するデルタレスの洋上風力上級顧問兼研究員であるデジリー・プレンカー博士(Dr.Désirée Plenker)。筆者撮影)
多様なニーズが交錯する海洋空間
国による海洋空間計画が不可欠
今年2月、東京のオランダ大使館で行われた「日蘭洋上風力エネルギーデー」のセミナーには、デルタレスの洋上風力上級顧問兼研究員であるデジリー・プレンカー博士(Dr.Désirée Plenker)が登壇した。
デルタレスは、オランダに本社を置く非営利の独立系総合研究所。北海をはじめ、台湾海峡や米国東海岸、日本など、世界の洋上風力発電プロジェクトに携わっている。同研究所は、企業や政府機関などが資金を出し合って、初期の調査や研究を行う共同産業プロジェクト(JIPs、Joint Industry Projects)に数多く取り組んだ実績をもつ。
オランダや英国、デンマークなどに囲まれた北海は、各国の領海やEEZ(排他的経済水域)が複雑に入り組んで分布している。その中で洋上風力発電プロジェクトを進めるには、国のリーダーシップによる海洋空間計画が重要だとプレンカー博士は述べる。
「北海のオランダ領は、エネルギーや自然、食料などの目的に加えて、航路や国防、海砂の採掘といった用途でも活用されています。海洋空間に多様な需要がある中で、洋上風力発電の導入を進め、同時に環境の持続可能性を維持するには、第一に、国による海洋空間計画が重要なのです」。
洋上風力の影響を複層的に理解
ステークホルダーとの協力が必須
限られた海洋空間で洋上風力が他の産業や用途、環境と共生するには、いくつかの課題があるとプレンカー博士は強調する。「1つ目は、環境への影響を可視化して、大規模な洋上風力発電が生態系と海洋環境に及ぼす影響を複層的に理解することです」。
オランダでは2016年から、環境などへの影響を国がモニタリングする「WOZEP」というセントラル方式のプログラムが行われている。海鳥や渡り鳥、海洋ほ乳類やコウモリといった生態系のうち、どの生物種への影響が大きいのか、生息地にはどのような影響が及ぶのかなどを調査しているという。
「2つ目は、空間やインフラ設備を多目的に活用して、エネルギー転換による便益を高めるようにすること。発電事業者や送配電事業者、シンクタンクなどさまざまな関係者とコラボレーションして、共生の可能性を探ります。JIPユナイテッドというプラットフォームでは、欧州の26の事業者がパートナーシップを組み、海洋環境の機会と便益を最大化し、リスクを抑えるために取り組んでいます」。
設備の設計思想に織り込む
「ネイチャー・インクルーシブ」
さらに、設備の設計思想に自然との共生というコンセプトを組み込むことが大切だという。「JIP HaSProというプロジェクトでは、環境にやさしい洗掘防止装置の性能や、インフラ設備への潜在的なリスクの技術的な評価を行っています。デザインにおいて自然という要素を重視すること、すなわち、ネイチャー・インクルーシブ・デザインが重要です」。
講演後、プレンカー博士に日本の洋上風力発電が発展するためには何が重要かインタビューした。「海洋空間計画はどの国においても重要ですが、計画の早い段階から多くの関係者と対話すること、とりわけ、漁業関係者など海洋空間に関わる利害関係者との密な対話が大切だと考えます」。
DATA
取材・文:山下幸恵(office SOTO)