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浮体式洋上風力発電の商用化を目指す日本の現状と課題を読み解く。九州大学 胡長洪教授に聞く。

日本が浮体式洋上風力発電の商用化に取り組むにあたって重視すべきこととは何か。船舶や浮体の構造に詳しい九州大学洋上風力研究教育センターの胡長洪教授に話を聞いた。

メイン画像:福島県沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業 (2016年7月)。出典:経済産業省

 

<目次>
1.造船や海洋土木 日本の産業の強みを生かす
2.最大の課題はコスト低減 サプライチェーン構築を
3.産学連携で目指す早期の商用化

 

造船や海洋土木
日本の産業の強みを生かす

2025年6月、日本の排他的経済水域(EEZ)に、洋上風力発電の設置を可能にする改正法が成立した。EEZへの浮体式洋上風力発電の案件形成を、早期かつ大量に行うことが期待されている。日本の浮体式洋上風力発電の技術開発は、世界的に見てどれくらい進んでいるのか。九州大学の胡長洪教授は、「経済産業省が11年から実施した『福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業』に代表されるように、日本は比較的早くから浮体式洋上風力発電の研究開発に取り組んできました。この事業では、2MW・5MW・7MWの風車を福島県沖に設置しています。残念ながらプロジェクトはすべて成功したわけではありませんが、当時の風車のサイズとしては相当に大規模でしたし、その意味で世界をリードしていたと捉えています」と話す。

造船や海洋土木の産業に強みを持つ日本には、浮体の製造や設置工事における優位性があると胡教授は指摘する。「浮体式のコスト構造は、大きく風車の製造、浮体の製造、設置工事に分けられ、それぞれのコストは約3分の1ずつと考えてよいでしょう。現在、日本に大型の風車メーカーはありません。しかし、浮体の製造と設置工事に関しては、造船会社やマリンコンストラクターが高い技術力を持っており、世界と比べても優位性があると考えています」。

経済産業省は24年6月、NEDOの浮体式洋上風力発電の導入に向けた実証事業で、秋田県南部沖と愛知県田原市・豊橋市沖の2海域を選定した。この2つの海域では、セミサブ型の浮体を想定しているが、これは日本の国内産業の特長を反映していると胡教授は説く。

「セミサブ型は船舶の形状に近く、日本のお家芸である造船技術を生かせる可能性があると思います。国内初の大規模実証でセミサブ型が採用されたことには、こうした背景があるのではないでしょうか」。

その一方で、浮体の形式にはそれぞれ一長一短があり、日本国内において現時点で特定の形式が主流になると断定することはできないという。「例えば、波浪による荷重は水面より上の面積に比例するため、水面より上の面積が大きいバージ型は波浪による荷重が大きくなり、水面下の面積が大きいセミサブ型は波浪による荷重を小さくできます。その一方で、バージ型には、喫水が浅い岸壁でも組み立てができるというメリットがあります。組み立てが可能な港湾の数が増えれば、浮体の大量導入にも対応しやすくなるでしょう。このように、どの形式にも一長一短があります。今回の大規模実証を経て、製造・組み立て・メンテナンスというライフサイクル全体を通して、総合的にどの形式が最もコストダウンが可能で、大量導入を進める上で優位性があるのかを見極めなければなりません」(胡教授)。

経産省は25年7月、EEZにおける案件形成を視野に、大水深などの過酷な環境に対応するための技術開発・実証を拡充する方向性を示した。水深が深いEEZへの展開を考えると、TLP(緊張係留)の強みが生かされると胡教授は考えている。「係留索の素材には、鋼製のチェーンやワイヤー、合成繊維のロープなどがありますが、大水深で係留する際には係留索の重量が課題になると考えています。軽量な合成繊維や、複数の素材を組み合わせるハイブリッドの係留索などの方法が検討されていますが、工夫してコストダウンを実現することが重要だと思います。日本は鉄鋼産業や合成繊維産業にも強みを持っているため、係留索の分野でも技術力を発揮してほしいと期待しています」。

次世代浮体式洋上風力の技術開発のイメージ


出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

 

 

最大の課題はコスト低減
サプライチェーン構築を

コストダウンは、浮体式洋上風力発電の商用化に向けた最大の課題だと胡教授は強調する。「浮体を大量生産できれば、コストを低減できる可能性はあると考えています。しかし、それだけでなく、設置工事費用の引き下げも重要です。設置工事にあたって重要なのが船舶の確保ですが、日本には洋上風力発電を設置するための船舶が多くありません。欧州は海洋オイル&ガス産業が盛んで、多くの専用の船舶や専門人材がおり、そうしたインフラやノウハウを洋上風力発電産業で有効に活用しています。こうしたサプライチェーンが形成されているため、欧州では設置工事のコスト低減も進んでいるようです。それに対して、日本のコストは割高だと思いますが、国もこの課題を認識しており、コスト低減に向けたさまざまな施策を進めていると捉えています」。

また、日本特有の環境条件を考慮することも重要だという。「日本は台風や地震のリスクが高く、風況も欧州とは異なります。そのため、欧州の設計をそのまま日本に導入することは必ずしも合理的ではありません。風車の設計を日本の環境に合わせて最適化することも課題の1つだと思います。さらに、制度面の整備も必要です。既存の漁業や船舶の航行、安全保障といった海洋の利用をどのようにすみ分けていくのかは、国が海洋空間計画として考えるべき重要なテーマです」。

産学連携で目指す
早期の商用化

一方で、アジアでも韓国を筆頭にして浮体式洋上風力発電の取り組みが進んでいる。「韓国は来年にも大規模な浮体式ウィンドファームに着工する見通しで、中国の南部でも浮体式洋上風力発電の事業化が進んでいます。こうした近隣国の状況も見ながら、日本はサプライチェーンの構築を急がなければならないと考えています」と胡教授は指摘する。

政府は25年8月、2040年までに15GW以上の浮体式洋上風力発電の案件を形成する目標を打ち出した。この目標を実現するには、どのような態勢づくりが必要なのか。胡教授は、「日本のさまざまな企業が業種の垣根を超えて浮体式洋上風力発電の商用化を目指すため、大学はプラットフォームとしての役割を担うことができます。九州大学の洋上風力研究教育センターでは、産業界とアカデミアが連携して浮体式洋上風力発電の技術を成熟させることを目指しています。それに加えて、人材育成や国際連携の取り組みを通じて、日本の洋上風力発電が大規模実証を経て早期に商用化のフェーズに入るように貢献していきたいと考えています」と話している。

 

 

PROFILE

九州大学洋上風力研究教育センター
副センター長

胡長洪(ふー ちゃんほん)教授


取材・文/山下幸恵(office SOTO)

WIND JOURNAL vol.9(2025年秋号)より転載

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