洋上風力から欧州企業の撤退相次ぐ 事業性の担保が急務
2026/07/28
英国石油大手bpが山形県遊佐町沖の事業からの撤退を検討していることが大きく報じられた。これまでにデンマークとノルウェーの発電事業者が相次いで日本市場からの撤退を表明しているが、それぞれ異なる事情があるようだ。
メイン画像:洋上風力第3ラウンド「山形県遊佐町沖」
1.日本の公募制度 他国に比べ魅力度が低い
2.エクイノールは 全社的に事業戦略を転換
3.遊佐町沖は国内企業が継続 拡大する欧州市場に注力
4.早期の市場立ち上げ必要 事業環境の激変への柔軟な対応を
日本の公募制度
他国に比べ魅力度が低い

CIPが事業計画を公表していた北海道檜山沖
日本の洋上風力市場は、昨年8月に三菱商事が第1ラウンド3海域から撤退を表明して以来、入札制度の見直しが行われ、今年1月には新しい制度の概要が明らかになっていた。しかし、上限価格や下限価格の設定に時間がかかり、第1ラウンド再公募と第4ラウンド公募が大きく遅れている。国際情勢や円安などの影響によるコストの上昇は、日本の洋上風力の事業性に暗い影を落としている。そうしたなか、コペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズ(CIP・デンマーク)、エクイノール(ノルウェー)の2社が日本市場から相次いで撤退を表明した。

国の合同会議にCIPが提出した資料(出典 経済産業省)
CIPは三菱重工業と共同で設立した「北海道洋上風力開発合同会社」を母体に日本国内の洋上風力発電事業に取り組んでいたが、2025年12月に合同会社を解散した。これにより北海道檜山沖(最大出力150万kW)など3つの案件を同社の別会社(シー・アイ・ファイブ・ジャパン・コー・エー合同会社など)に移管している。
同社の日本市場からの撤退は、三菱商事の撤退に象徴される事業性の低下への懸念が根底にあったものと受けとめられている。昨年6月に開催された国の合同会議で、CIPが提出した日本の洋上風力市場の評価は極めて低かった。なかでも公募制度では他国の市場に比べて魅力度が低いとしたうえで、事業実施リスクも高いと評価している。日本市場での事業性が見通せないことが、撤退の主な理由といえるだろう。

エクイノールは
全社的に事業戦略を転換
一方、今年6月に撤退を表明したエクイノールは、年末に日本事務所も閉鎖する。ただ同社はこれまで日本の洋上風力で落札案件がなく、その点日本市場への影響は小さい。重要なのは同時に韓国の洋上風力市場からの撤退も表明していることである。同社は、今回の撤退は風力発電・太陽光発電だけとどまらず、蓄電池やLNG火力などを組み合わせた「総合電力市場」に注力する戦略の見直しの一環としており、その点でCIPとは事情が違う。
エクイノールは、これまで脱炭素に向けた投資を積極的に展開してきたが、コストの高騰や利回りの悪化を受け、2027年までの再エネおよび低炭素分野への投資規模を大幅に削減、石油・ガスの収益最大化を最優先する戦略へと大きく転換している。日本からの撤退はこうした全社的な事業戦略の方針転換に基づいた決断とみられている。
遊佐町沖は国内企業が継続
拡大する欧州市場に注力

7月1日に開催された山形県遊佐町沖洋上風力発電事業 地元関連業務に関する説明会(出典 山形遊佐洋上風力合同会社)
一方bpは、山形県遊佐沖からの撤退を正式決定したわけではない。出資の離脱に向けた協議を行っているという段階だ。現在のところ、同社が出資参画している遊佐町沖の洋上風力プロジェクト(出力45万kW)は丸紅が主導して、関西電力や東京ガスなどの国内大手エネルギー企業も参画しており、事業推進体制は強固だ。
仮にbpが出資の離脱を決めたとしても、これらの国内大手企業がbpの出資分を取得して事業を継続する意向であり、第1ラウンド3海域と異なり事業者が消えるわけではない。事実、丸紅などで構成する山形遊佐洋上風力合同会社は、今後も当初のスケジュールに沿って事業を進めていく姿勢を見せている。7月1日には「山形県遊佐町沖洋上風力発電事業 地元関連業務に関する説明会」に参加し、事業概要や工程、地元企業が参入する可能性がある業務について詳細に説明した。
また7月16日からは環境影響評価の第3段階である環境影響評価準備書の縦覧を開始する。加えて山形県遊佐町沖を含む第3ラウンド事業は、政府の特別救済措置として、長期脱炭素電源オークションへの参加が認められている。同オークションに参加することで、事業性が高まることが期待されている。
bpは、このほかにもJERAとの合弁会社「JERA Nex bp Japan」を通じて、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖と青森県日本海南側の2つの事業を落札しており、山形県遊佐町沖を含めると日本国内で3つの案件に関与することになる。bpが日本国内でこの3案件を同時進行することは難しいのではないか、という声は以前から業界関係者の間でささやかれていた。
bpは英国本社が日本事業の意思決定を判断するが、JERA Nex bpはそこにJERAの意思決定が関わってくる。2つの意思決定系統が日本国内で存在することで、二重投資のリスクも出てくるため、日本市場では意思決定系統を一本化しておく方が望ましい。さらに英国では今年1月の第7回 CfD(差額決済制度・AR7)で、過去最大の8.4GWの発電容量を確保した。また同月の北海サミットでは、英国を含む北海沿岸の8カ国が総出力100GWの洋上風車を新設する合同プロジェクトに取り組む「ハンブルク宣言」を採択した。bpとしては日本よりも事業性が高く、今後の計画拡大が期待される欧州の洋上風力市場に注力していきたいという思惑もあるだろう。
早期の市場立ち上げ必要
事業環境の激変への柔軟な対応を

洋上風力第3ラウンド「山形県遊佐町沖」
以上のように、欧州企業が日本市場から撤退する背景には、それぞれの異なる思惑や事情があり、一概に日本国内の事業環境だけが要因ではない。しかし冒頭に示した通り、日本国内では新たな公募制度も策定された。上限価格と下限価格についても、国の調達価格算定委員会が7月14日に開催され、物価変動率の上限を40%とする方向性が示された。
しかし中東情勢の先行きは依然として不透明で、足元でのコストはさらに上昇しつつある。何よりも日本国内では、風力発電産業のサプライチェーンが構築されていない。ベスタスが、日本国内におけるナセル最終組立工程の拠点を福岡県北九州市に配置する考えを明らかにしたが、国が主導する形で公募制度や支援措置を柔軟に運用し、持続可能な洋上風力市場を一刻も早く立ち上げていく必要がある。

DATA
取材・文/宗 敦司









