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【特別企画】洋上風力トップ3社が熱い議論、日本が直面する課題と解決策とは?

日本の洋上風力発電の発展に向けて、どのような取り組みが必要なのか。MHIベスタスジャパン、清水建設、DENZAIという国内外のプロジェクトに携わるトッププレーヤーが、業界全体で取り組むべき課題と解決策について熱い議論を交わした。

<目次>
1.業界全体で取り組むべき課題と解決策とは
2.ポテンシャルの高さを産業振興に生かすには
3.未来を担う子ども達に風力産業の魅力をアピール

 

日本の洋上風力発電の
緊急課題は?

風力発電機世界最大手のベスタス(デンマーク)と三菱重工が合弁で日本市場向けの総販売代理店として設立したMHIベスタスジャパン。ベスタスは、秋田県の秋田港と能代港の港湾区域内で発電事業を行う秋田洋上風力発電所向けに33基の洋上風車を供給した。2023年1月に国内初の大規模商業運転が開始され、その後も順調に稼働している。清水建設は、22年10月に国内最大の自航式SEP船「BLUE WIND」を建造し、日本の洋上風車の施工をリードしている。DENZAIグループは24年4月、つり上げ能力が2500トンのクレーンを導入し、15MW超の洋上風車建設にも対応できる体制を整え、日本国内はもちろん、海外でも浮体式洋上風力発電プロジェクトへの参入を目指している。

MHIベスタスジャパン代表取締役社長 後藤克繁氏

後藤 秋田・能代港湾区域の洋上風力発電所では、ベスタスがO&Mのスタッフとして約20人を雇用し、そのうちの半数以上を地元から採用しています。地元企業にもご協力をいただき、O&Mの体制の充実を図っています。風車部品の製造でも複数の国内企業がすでにベスタスのサプライヤーに採用され、ベスタスのグローバルサプライチェーンの一翼を担っていますが、引き続きより多くの国際競争力のある国内企業に参入してもらえるよう取り組みを進めていきたいと思っています。

清水建設洋上風力プロジェクト推進室長 白枝哲次氏

白枝 23年4月から北海道の室蘭港をSEP船の母港として活用しています。日本海にも太平洋にも出やすく、北日本で多くのプロジェクトが計画されていることから室蘭港を選びました。自分は、洋上風力発電が日本で最初の大規模な海洋産業市場に成長すると期待しています。北海道の石狩湾新港で国内最大の洋上風車の据え付けを成し遂げたことによって、日本の海洋産業市場の先頭に立つことができたと自負しています。

DENZAI取締役専務執行役員 吉田昌弘氏

吉田 風車のローカライゼーションを進めるにあたって、サプライチェーンの構築が関心を集めていますが、それ以外にも秋田のようにO&Mスタッフを地元で採用するなど、地域ごとに実現可能なことがたくさんあると思っています。DENZAIグループはMOPA(室蘭洋上風力関連事業推進協議会)の事務局でもありますので、風力発電事業者と北海道の企業を結びつけるお手伝いができたらと考えています。

ポテンシャルの高さを
産業振興に生かすには

——— 洋上風力産業の課題解決について
 
後藤 日本の強みを生かして課題を解決していくことが重要だと考えています。日本の電力需要は世界第5位、日本の領海とEEZ(排他的経済水域)を合わせた広さは世界第6位と、洋上風力発電の分野では世界のなかで類を見ないほどのポテンシャルがあるのが日本の強みです。案件のボリュームとともに、その案件形成が長期にわたって安定的に継続するということを明確に発信することができれば、国内外からの投資を呼び込むことができると考えています。また、日本のものづくり企業は、世界トップクラスの技術レベルを誇っています。風車と親和性のあるものづくりをしている国内企業とのマッチングを進めて、そのような企業を世界の市場に向けて部品を供給するグローバルサプライヤーとして採用する取り組みに力を入れていきたいと考えています。

石狩湾新港で洋上風車を設置する清水建設のSEP船「BLUE WIND」

白枝 これまで日本は、海洋のポテンシャルの高さを十分に生かすことができませんでした。モノパイルやジャケットのような基礎構造物についても、量産の基盤がありませんでした。モノパイルやジャケットを大量生産することは、今後の課題であると同時に大きなチャンスでもあると思います。また、日本は欧州に比べて海象条件や海底地盤の条件が厳しいので、施工する際に海外から導入した機械をレベルアップして運用する必要があります。そのような課題を解決するための技術開発をチャンスと捉えて、日本の強みに変えていくことが大切ではないかと考えています。

吉田 後藤さんがお話されたように、日本の強みを生かしていくことが大切だと考えています。また、白枝さんがお話されたように日本にないものを新たに構築していくことも重要だと思っています。しかし、日本では案件の受託が入札で決まるため、安定的に仕事が確保できないのが悩みです。台湾のように、政府が国内調達率の目標を定めるような取り組みを参考にすべきと考えています。

未来を担う子ども達に
風力産業の魅力をアピール

DENZAI

DENZAIが導入した2500トン吊りクローラークレーン(写真提供 DENZAI)

——— 産業振興に向けて必要な取り組みは
 
吉田 洋上風車の拠点港で建設作業を進めていくにあたって、重機などの機材や設備とともに、それを動かす人材が不足しているのが現状です。建設拠点となる港はすでにいくつかノミネートされていますが、仮に第2、第3ラウンド事業の海上工事の時期が重なって来たときに、「船がない」「風車を運んで来ることができない」「スタッフが足りない」「機材もない」といったことが懸念されます。DENZAIグループとしては、機材の導入とともに人材の育成にも注力していきたいと考えています。

後藤 風車の大型化が進むなかで、港湾を中心としたインフラの整備が大きな課題だと感じています。28年から30年にかけてラウンド事業の海上工事が輻輳(ふくそう)し、その時点で各海域のO&Mもスタートして、作業船の不足がボトルネックとなることが心配されます。インフラを最適な形で計画的に利用し、持続可能な案件形成を進めていくことが重要だと考えています。

清水建設

今年2月に室蘭市の小学生がSEP船「BLUE WIND」を見学(写真提供 清水建設)

白枝 建設業界では人材の確保が緊急の課題となっています。建築・土木の分野も含めて業界全体で人材が不足していますが、日本にはものづくりが好きな人がたくさんいると思っています。自分は陸上風力の仕事を始めた頃に、プラモデルを組み立てるときのようなワクワクした気持ちを感じたことを覚えています。今年2月に室蘭市の小学生を対象にBLUE WINDの見学会を開催しました。子ども達は船のデッキの操縦システムや大きなクレーンを身近で見て体感したことで、ものづくりへの関心が高まったと思います。今後もこのような機会を大切にしていきたいと考えています。

DENZAI

第2回Offshore Wind Student Dayで講演するDENZAI 吉田昌弘氏(写真提供 WFO)

吉田 風力発電は、二酸化炭素を排出しないサスティナブルなエネルギーです。自分はMOPAの調査研究グループリーダーという立場で、洋上風力発電産業の魅力を幅広い世代の人達に伝える活動をしています。ひとりでも多くの子ども達が洋上風力エネルギーに興味を持って、自分のまちの風車に関連する仕事に就いていただくような取り組みを続けていきたいと考えています。

秋田港・能代港洋上風力発電所ではベスタスのO&Mスタッフの半数以上を地元から採用(写真提供 ベスタス・ジャパン)

後藤 洋上風力発電産業は、グローバルな業界です。この業界で仕事をすれば、日本国内にとどまらず、アジアから世界へ活躍の舞台を広げることができます。若い世代の人達がやりがいと誇りを持って前向きに仕事ができるような業界にしていくことがわれわれの責任だと感じています。

DATA

MHIベスタスジャパン株式会社
清水建設株式会社
DENZAI株式会社
室蘭洋上風力関連事業推進協議会(MOPA)


取材・文/ウインドジャーナル編集部

Sponsored by DENZAI株式会社

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