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【洋上風力第4ラウンド】第1ラウンドのFIP転を容認へ 第2・第3ラウンド事業者への配慮措置が今後の焦点に

洋上風力発電の第1ラウンド事業をFITからFIPへ制度転換(FIP転)することについての議論が大詰めを迎えている。6月24日の有識者会議ではFIP転を容認する方向性が示され、制度変更後の第2・第3ラウンド事業者への「配慮措置」が今後の焦点になりそうだ。

メイン画像:洋上風力第1ラウンド「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」

公共契約の専門家
「FIP転に法的な問題はない」

千葉県銚子市沖

洋上風力第1ラウンド「千葉県銚子市沖」

事業者や業界団体からのヒアリングを実施した前回の会議を踏まえ、今回はPPP/ PFIを専門とする青山学院大学の山口直也教授、公共契約を専門とする筑波大学の楠 茂樹教授の2人を招きFIP転について意見を聴取した。

そのなかで山口氏は、「国民負担の中立性確保を条件として、FIP制度への移行を認めることは適切」としたうえで、国に「FIT 認定と FIP 認定のいずれかを選択可能とする方向性を早い段階で丁寧に説明する必要があったが、応募する事業者側に十分に伝わっていなかったことは反省すべきだ。仮に第1ラウンドのFIP転を認め、オフテイカーを奪われて第2・第3ラウンド事業の採算性に悪影響が発生した場合には何らかの配慮が必要となる」と指摘した。

楠氏は行政法の専門家の立場から、元契約の内容変更について「会計法や地方自治法には契約変更に関する規定がない。(契約変更で)考慮すべきは、①変更前後の契約の同一性、②契約変更の必要性の大きさ、③競争要素への影響、④変更を認めないことによる損失やコストの大きさとしたが、今回のFIP転については、そのまま適用できるかどうかはわからない」と述べた。

これに対して委員からは契約変更の具体事例についての質問が出たが、山口氏は「発注者側の理由での変更事例はない」と話した。FIP転に関する公正性の質問に対して、楠氏は「事業が一体であること、変更が合理的であること、予測不能な事由での変更は認められる」と説明し、FIP転に法的な問題はないとの見解があらためて示された。

FIP転に慎重な
事業者との溝は埋まらず

また委員からは、FIP転に慎重な意見の事業者に対して「価格調整スキームや風車変更を認めつつ、FIP転に反対することはなぜなのか」といった質問が出たが、事業者側は「価格調整の必要性はパブリックコメント(パブコメ)でも言及されており問題ないが、FIP転についてはパブコメでも否定的な意見が多かった」と反論した。

複数の事業者が第1ラウンド事業の再公募を求めていることについて、委員からは「地域の観点が語られていないのは問題だ。再公募で事業が遅れた場合、地域の損失を考慮すべきだ」という意見が出された。これに対して事業者側は、「FIP転で事業をつくり直すにも時間がかかる。再公募を実施しても事業者の工夫で早くできる可能性もある」と反論し、FIP転に慎重な意見の事業者とあいだの溝は埋まらなかった。

事業環境整備に関する3つの要望(出典 日本風力発電協会)

また洋上風力投資を完遂するための事業環境整備について、日本風力発電協会(JWPA)と再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)の2つの業界団体から意見聴取を行った。
JWPAは会員企業の要望を「公募制度のあり方」、「事業収支の改善」、「事業リスクの低減と予見性の向上」の3つのカテゴリーに整理し、それぞれについて検討してほしい項目をまとめた。洋上風力のラウンド事業は厳しい状況に直面しており、第2ラウンドまでの事業はこの1~2年の間に最終投資決定を迫られているため、対策のスピードが重要だと主張した。

また3つのカテゴリーのなかでも事業収支の改善は優先度が高く、25年中にも施策を打ち出してほしいと要望する事業者もあると述べた。特に、再エネ賦課金の廃止やカーボンプライシングの導入といった「オフテイカーへの優遇措置」は重要だと訴えた。

2つの業界団体が
さまざまな改善策を要望

各国の海域占有期間の状況(出典 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会)

またJWPAは海域占用期間については海外でも長期間化している事例をあげ、日本においても占用期間を30年以上に延長することを要望した。REASPも「一般海域の全ての洋上風力が危機的状況に陥っている。事業採算性の確保と事業実施の効率性の確保が重要だ」と窮状を訴え、さまざまな改善策の速やかな実施を求めた。

具体的には、PPAオフテイカーへのインセンティブ、非化石価値取引市場での適正価格取引などのように脱炭素電源が適切に評価されるための環境整備のほか、事業予見性の向上のため入札上限額の設定、船籍要件の緩和、基地港湾整備や系統整備に関する早期情報開示、風車サプライヤー選定の柔軟性確保といったさまざまな提案を行った。さらにゼロプレミアム電源の長期脱炭素電源オークションへの参加や、港湾使用料の減免なども要望した。

業界団体からの要望に
前向きな意見

委員からは、「国民負担が増えないものに対しては速やかに実施すべきだ」、「海域占用期間については、事業予見性の確保のため。10年間の延長を期待している」、「非化石価値の価格形成の議論は重要だ」といった意見が出された。経済産業省や国土交通省からも海域占有期間の延長については前向きの姿勢が示された。ただ、港湾使用料の減免や分担の要望について、国土交通省は「減免分を国民負担としなければならないので慎重な議論が必要だ」と話した。

今回の有識者会議では、第1ラウンド事業のFIP転をおおむね容認しつつ、オフテイカーへの優遇措置などによってPPA市場を拡大し、事業リスクの低減や予見性の向上をサポートする方向性が示された。委員からも「第2・第3ラウンド事業への配慮が必要」という意見が出され、制度変更後の第2・第3ラウンド事業への「配慮措置」が今後の焦点となりそうだ。

DATA

総合資源エネルギー調査会省大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議

取材・文/宗 敦司

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