長崎県五島市沖で独自開発のハイブリッドスパー型が本格稼働 地域共生型浮体構造が目指すもの
2026/06/02
国内の大手建設各社が浮体式の技術開発でしのぎを削っている。今年1月5日、戸田建設を代表企業とする長崎県五島市沖の浮体式洋上風力発電所が商業運転を開始した。独自開発した「地域共生型浮体構造」の将来ビジョンを取材した。
メイン画像:長崎県五島市沖の五島洋上ウィンドファーム。(写真提供 戸田建設)
スパー型浮体開発の成果
五島市沖で本格稼働
五島市沖の浮体式洋上風力発電所は、戸田建設を代表企業に、ENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力の6社が設立した「五島フローティングウィンドファーム合同会社」が事業を進めている。出力2100kWの風車8基を設置し、総出力1万6800kW。複数基による大規模浮体式洋上風力発電所としては国内初の案件だ。
戸田建設と京都大学が共同開発した、コンクリートを使って重心を下げ安定性を向上させた「ハイブリッドスパー型浮体」に、日立製作所製の風車を搭載している。日立製作所はすでに風車製造から撤退しているが、五島市沖の事業については撤退を決める前に発注していたもので、日立製作所が製作した最後の風車となる。
戸田建設は、2007年から洋上風力発電事業に取り組み、09年には長崎県佐世保港内に第1号機を浮かべている。そして10年に環境省の委託事業として五島市沖で実証を開始し、13年に同市の椛島(かばしま)沖に実証設備を設置した。この風車をその後、同市崎山沖に移転し、実証後の16年からは「はえんかぜ」という名称を引き継ぎ、これまで約10年間、商業運転を続けている。この間、毎年複数の台風が直撃し落雷も確認しているが、ブレードが大きく損傷したことはなく、安定した運転を続けているという。
戸田建設は、21年に再エネ海域利用法に基づく国内初の案件である五島市沖の事業者に選定され、その代表企業として浮体式洋上風車の建設を進めてきた。07年の浮体式事業の開始から20年近くにわたる同社の取り組みの成果として、五島市沖の洋上風力発電所が今年1月に運転を開始した。
大手建設各社が
浮体式の技術開発
浮体式洋上風力発電をめぐっては、国内の大手建設会社などが先を競うように技術開発を進めている。浮体の主要な構造としては、「セミサブ」「スパー」「TLP」の3つのタイプがある。大林組は、青森県沖で国内初となる緊張係留方式のTLP型浮体を設置して実証を行っている。鹿島建設はカナデビアと共同で、鋼とコンクリートを組み合わせたセミサブ型浮体の技術開発に取り組んでいる。東洋建設はTLP型浮体の技術開発、東亜建設工業はセミサブ型浮体とハイブリッド係留システムの技術開発に取り組んだ実績がある。大成建設は、コンクリート製セミサブ型浮体式基礎の基本設計承認を日本海事協会から取得している。
国内の大手建設各社がセミサブ型やTLP型浮体を手がけているのに対して、戸田建設は当初からスパー型の浮体構造に特化して技術開発を進めてきた。その理由について、同社執行役員土木技術統轄部副統轄部長の小林修氏は、「スパー型浮体は、ほかの形式と比較して波浪の影響を受けにくく、日本特有の波が高く水深が深い海域条件に最も適した構造であると考えて開発に取り組みました。また、スパー型浮体は、単純な円筒形状であるため製造が容易であり、多くの地元企業が参画できる利点があることも選択した理由です」と説明する。

戸田建設のハイブリッドスパー型浮体。(写真提供 戸田建設
スパー型浮体の下部では、大きな水圧が作用しているため、戸田建設では圧縮荷重に対して強く、鋼よりも安価なコンクリートを用いた「ハイブリッドスパー型」を採用した。コンクリートは、建設会社として扱いに慣れており、今後さまざまな地域で浮体を製造していく際にも多くの地元企業が参画することができ、地域経済への貢献につながることが期待される。
さらに、コンクリートは日本国内で100%近い自給率があり、エネルギー安全保障にも貢献する。コンクリートを使って重心を下げ、安定性を向上させることができる点も「ハイブリッドスパー型」に特化した理由のひとつだという。五島市沖の事業では、ハイブリッドスパー型浮体のうち、鋼製の部分は長崎県内の企業が製造を担当し、コンクリート部分は地元の建設会社などが請け負った。
大型風車の浮体搭載
2030年代早期に実用化
戸田建設では、30年代早期の実用化を目指して風車の大型化への対応を進めていく考えだ。今後の浮体式洋上風力発電では1万5000~2万kWという大型風車の導入が想定されるが、戸田建設はNEDO実証事業の「大型風車に対応した低コスト型ハイブリッドスパー浮体量産システムの開発」に取り組んでいる。その実証の成果などから、1万5000kW級の大型風車に対応したハイブリッドスパー型浮体を製造することについて、同社では問題なく対応できると自信を見せる。
むしろ、大型風車に対応するには、通常の鋼製スパー型浮体では、水圧に抵抗するため分厚い鋼板を使う必要があり、これがコストの上昇要因になるという。これ対して、水圧に強いコンクリートを用いたハイブリッド式スパー型浮体であれば、コストを抑制することができ、競争力が高まると同社では考えている。

昨年8月に実施した洋上風車一括搭載技術の実証試験。(写真提供 戸田建設
一方、実用化にあたっての大きな課題は、浮体の施工方法だ。スパー型浮体は、タワーが高くなると船で吊り上げる際の垂直移動距離が足りなくなるという課題がある。そこで昨年8月にはNEDO事業の一環として「洋上風車一括搭載技術」の実証試験を行い、これに成功した。タワー・ナセル・ブレードを陸上もしくは台船上で事前に組み立て、国内で稼働中の大型起重機船(3700トン吊級)で完成形の風車を一括で吊り上げ、浮体まで吊曳航して一括搭載する技術だ。
2本のクレーンジブのあいだにタワーを通した状態で吊るため、風車の大きさに制限されることなく、起重機船の吊能力を最大限に活用できるのが特長だという。この技術に水深の制限はなく、起重機船の喫水が確保できる水深であれば吊り上げ・曳航が可能。事前の組み立てには水深7.5m程度の岸壁があれば施工可能だという。
技術のステップアップと
コストミニマムを実現
「実海域で実際の風車を用いて実証できたことは、洋上風車一括搭載技術の施工実現性を立証しただけでなく、1万5000kW以上の大型風車に適用するうえで多くのデータを取得することができました。この実証で得られた知見を踏まえて、今後は1万5000kW級風車での実証試験に向けて、技術のさらなるステップアップを図り、コストミニマムを実現していきます」(小林氏)。
五島洋上ウィンドファームは、これから20年間にわたり商業運転を続けていく。今後は風車の運転を行うことで、浮体式洋上風力発電のO&Mのノウハウも得られる。政府は、40年までに浮体式だけで15GW以上の案件形成を目指している。
執行役員の小林氏は「政府目標の達成に向けて、当社も積極的に貢献していきたいと考えています。そのためには、世界的な風車の大型化に対応し、量産化できる浮体システム(建造および施工)を確立することが重要であり、五島洋上ウィンドファームの実績を生かしつつ、地域経済と共生しトータルコストミニマムとなる次世代型浮体式洋上風力の実現に向けて取り組んでいきます」と力強く語った。

取材・文/宗 敦司
WIND JOURNAL vol.10(2026年春号)より転載









