停滞する洋上風力第4ラウンド 日本の構造的な課題が一気に噴出
2026/07/02
洋上風力第4ラウンドの北海道2海域が、異例の停滞局面に入っている。背景にあるのは、単なる手続き遅延ではない。系統制約、基地港湾と施工能力の不足、風車の供給体制など、日本の洋上風力が抱えてきた構造的な課題が一気に噴出している。
メイン画像:北海道松前町沖
公募プロセスの再開は
今年の夏以降に

メイン画像:洋上風力第4ラウンド 2海域の事業計画
洋上風力第4ラウンドの公募は、これまでの安値競争から、「実現性・供給網・地域調整」を重視する局面へ移行する転換点となる。昨年7月には北海道檜山沖と松前沖の2海域が促進区域に指定された。しかしその後、公募占用指針の見直しが行われたことで、具体的な動きは止まっている。しかも見直しによって促進区域に指定されたからと言ってすぐに公募開始とはならず、EPC(設計・調達・建設)実現性評価、サプライチェーン確保、地域合意形成、系統接続の確度などを重視する形となっており、公募プロセスの再開は今年の夏以降となる見通しだ。
洋上風力第4ラウンドの檜山沖では、これまでに6つの事業体が環境影響評価の手続きを進めている。松前沖で名乗りを挙げているのは、関西電力1社のみとなっている。
基地港湾などの建設インフラ不足と
大規模・複数案件の同時進行に不安

北海道檜山沖の促進区域(出典 経済産業省)
促進区域に指定された北海道の2海域にも多くの課題がある。檜山沖は総出力が100万kW級に達する可能性がある巨大案件だ。国内でも最大規模クラスとなるが、それだけに課題も重い。なかでも最大の問題は送電網の整備だ。北海道内はもともと電力需要が大きくないため、本州への送電を担う北本連系線の容量にも限界がある。大規模洋上風力を導入しても、送電容量が不足すれば、出力抑制が頻発しかねない。
さらに北海道特有の厳しい気象条件もある。冬季は荒天や高波、着氷によって施工可能期間が限られる。工期が長期化しやすく、建設コストの上昇リスクも大きい。

北海道松前沖の促進区域(出典 経済産業省)
一方、松前沖は比較的小規模だが、こちらも問題は少なくない。港湾利用、海底ケーブルの陸揚げ、漁業調整など、複数の課題が残る。特に深刻なのは、「北海道西方沖全体で、複数案件を同時建設できるのか」という問題だ。
風車巨大化の対応や作業船不足 企業撤退のジレンマも

北海道の基地港湾候補(出典 国土交通省)
洋上風力では、建設の拠点となる基地港湾の存在が極めて重要になる。巨大風車の保管、組み立て、積み出しには、大規模なヤードと高耐荷重岸壁が必要だ。北海道の港湾はまだ基地港湾に指定されていないが、特に石狩湾新港と室蘭港の2つが、風車部材製造まで可能な基地港湾としての基礎力を持つと評価されている。他にも稚内市、留萌市、函館市が基地港湾の指定を目指す意向を表明しているが、部材製造は限られた港湾に依存する構造となっている。
近年は風車の大型化が進んでおり、現在では15MW級が標準と見られているが、今後は20MW級の風車も現実味を帯びてくる。そうなるとブレード長は100mを超え、部材重量も増大化し、必要となるヤード面積や岸壁性能は従来の想定を大きく超えてくる。こうした状況の中、計画されている基地港湾が、複数案件を同時に支えられる余力を持てないのではないかという懸念も指摘されている。
加えて、日本国内では近い将来、SEP船(自己昇降式作業船)や海底ケーブル敷設船も不足すると予想されている。世界的な洋上風力ブームによって施工船需要は逼迫しており、日本向けの施工船を優先的に確保するのは容易ではない。北海道では、他にも石狩市沖、岩宇・南後志沖、島牧沖の3海域が有望区域に整理され、促進区域への格上げを目指している。以上のことから北海道西方沖の案件は現状のままでは、同時施工できる能力が不足しているという状態である。

北海道江差町沖
この公募プロセスの停滞は、地元にとっても重い意味を持つ。漁業者や自治体は、長期間にわたって協議を続けてきた。しかし公募開始が見えないことで、「本当に事業化されるのか」という不安感が広がっている。港湾投資を進めるべきか、地元企業が人材育成を急ぐべきか、判断が難しい状況が続く。
国側にもジレンマがある。急いで公募すれば、再び採算悪化や事業停滞を招くリスクがある。その一方で、慎重になりすぎれば、海外勢の撤退やサプライチェーン空洞化を招く恐れがある。そのため今後、政府は檜山沖と松前沖を時間差で進める「段階的公募」や、港湾の対応能力を踏まえて案件数を調整する方向へ向かう可能性もある。また、基地港湾や施工船を国主導で整備する必要性もこれまで以上に強まっている。
洋上風力第4ラウンドは、日本が本当に洋上風力産業を成立させられるのかを問う試金石となる。再エネ政策だけではなく、港湾、造船、送電、地域振興を含む総合産業政策として成立させられるか。北海道2海域の停滞は、その難しさを象徴している。

DATA
経済産業省 再エネ海域利用法に基づく促進区域を指定しました
国土交通省 北海道港湾活用ビジョン(仮称)の中間報告
取材・文/宗 敦司










