日本での洋上風力導入・拡大を確信[東大教授・石原孟氏インタビュー]
2022/02/25
国・業界が相互に信頼
好循環が回り始める
「2兆円基金」創設など
――日本で洋上風力の導入拡大機運が高まったきっかけは?
決定打は20年10月の菅義偉首相による「50年カーボンニュートラル」宣言と、20年12月の「洋上風力産業ビジョン」です。洋上風力産業ビジョンが「30年までに10GW、40年までに浮体式も含む30GW~45GWの案件形成」の目標を示したことです。さらに、2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」が創出されたことも大きいと思います。これまで努力を積み重ねた結果、国が洋上風力の潜在力を信じ、業界が国の期待に応えるという好循環が回り始めたのです。
菅首相が「50年カーボンニュートラル」と、30年度の温室効果ガス削減目標「13年度比46%削減」という二つの方針を打ち出したことが歴史的に高く評価されると思います。この二つの表明により、日本の雰囲気がガラッと変わりました。
案件形成「30年10GW」
できれば「40年30GW以上」
も確実
――「洋上風力産業ビジョン」が掲げる「30年10GW、40年30GW~45GWの案件形成」についての見解は?
国は30年までに10GW分の風車を建てるとは言っていません。案件形成です。日本は信用を重視するので、取れた案件は必ずやります。「30年までの10GW」は、案件が形成されれば、30年よりすこし後になりますが、必ず建設されるのです。
もし10GWの案件を形成できれば、必ずそのための社会的インフラが整備されます。インフラが整備されれば「40年までに30GW以上」の案件形成も確実です。そうすることで、50年に向かっていけば、洋上風力の持続的な導入拡大を期待できます。
むしろ、社会インフラの整備が案件形成についていけないということがないように、港湾などの整備や、作業船の建造など、いろいろなことを確実にやっていかなければなりません。
世界3大風車メーカーの
2社と協働していると認識
「三菱重工・ベスタス」
「東芝・GE」
――三菱重工業とベスタスが21年2月、洋上風力発電設備を販売する合弁会社、MHIベスタスジャパンを設立しました。また、東芝と米ゼネラル・エレクトリック(GE)は21年5月、東芝京浜工場でGEの風車「ハリアデX」の組み立てやサプライチェーンの共同構築を柱に提携しました。
三菱重工業はMHIベスタスジャパンに70%出資しており、事実上営業の主導権を持っています。そして日本での案件形成は、MHIベスタスジャパンが行っているのです。MHIベスタスジャパンの営業がうまくいけば、ベスタスは、日本で風車を生産することになるのは当然のことだと私は思っています。
アジアで最も魅力のある市場は、日本だと思います。日本には非常に強い経済基盤があります。そして東芝と三菱重工業も、それぞれ世界最大規模の風車メーカーと組んで、日本市場を開拓していると認識しています。
日本は、国による洋上風力の導入目標や、国内の発達した工業基盤を上手に使って、思い切って日本国内で風車向け製品の生産を始めるべきだと思います。スマートフォンを分解すると日本製品がたくさん入っているのと同じように、風車の部品に日本製品がたくさん入っていればいいのだと思います。コスト競争力があれば、海外から部品を持ってくるよりも、海外の風車メーカーを日本に誘致して、日本で組み立てた方が安いに決まっているのです。日本で風車を生産しないと、国内のサプライチェーンはうまく形成できないと思います。
また、大量導入の風車が電力の安定供給にもかかわる話です。海外で生産したものを日本に運んで、部品が届くまで3ヶ月待つということを避けなければなりません。工場が日本にあれば、どこの国の会社ということは、あまり関係ありません。
今、日本は、世界3大風車メーカーのうち、2社と協働していることと認識すべきだと思っています。
PROFILE
東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻
教授
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
洋上風力発電等技術研究開発プロジェクト リーダー
石原 孟氏
1992年3月、東京工業大学理工学研究科 土木工学専攻博士課程修了。清水建設(株)・技術研究所をへて、2000年4月に東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻助教授、08年4月に教授、現在に至る。長大橋をはじめ電力システム、交通システムにおける耐風設計を研究するとともに、風力エネルギー利用のための賦存量評価、風力発電量のリアルタイム予測、風力発電設備の耐風・耐震設計および振動制御、着床式・浮体式洋上風力発電システムの開発などに従事。日本風力エネルギー学会の前会長。
取材・文:山村敬一
WIND JOURNAL vol.1(2021年秋号)より転載